ドイツ留学~ハイデルベルク①~
語学学校では、担任のクリスティアーネが色々と企画してくれるので、ボーリングに行ったり、近くの町を散策したりと、クラスのメンバーで遊ぶことが多くなった。
一番楽しかったのは、彼女の出身であるハイデルベルクへ遠足に行った時のことだ。一度は頓挫したのだが、「うう・・・・・・ハイデルベルク」と露骨に落ち込んだ私をクラスメイトが慰めてくれたこともあり、予定していた次の週に実現することとなった。
留学前は友人たちに「ミステリアスな大人の女になって帰ってくる」と豪語していたのに、南ドイツの陽気な雰囲気と自由に感化されて、前よりもさらに子どもっぽくなっていた。
「よかったね、Y」と真剣に励ましてくれるものだから、自分に苦笑しつつも、素直に頷いた。
途中、乗り換えの際に時間があったので、カールスルーエを少しだけ散策した。ここの動物園はいいよ、とクリスティアーネが教えてくれたのだが、その時は時間がなかったので、その前で記念撮影だけをした。
駅の売店でストロベリー味のタバコを見つけたので、タバコ好きの友人のために、試しに一箱買うと、クラスメイトの一人、チュニジアのアイメンが「Y,一本くれ!」と要求してきた。
「ダメダメ、これは友達にあげるものだから」
「一本だけ!」
かなりしつこく食い下がってきたので、どこかで同じ気分になったような・・・・・・と考えて、思い出した。「となりのトトロ」で、めいちゃんがヤギにトウモロコシを取られそうになったシーンを見た時と、同じような気分だった。
「いやいや、プレゼントなんだから、箱をあけたらだめでしょ」
「だめなのか?」
「うーん、まあ日本ではね」
「ここはドイツだ!」
と、アイメンが勝ち誇ったように言うので、こちらもニヤリと笑って、
「送るのは日本だよ」
と言った。アイメンはなるほど、と納得し、笑って諦めてくれた。友人同士でなら、こういうやり取りもじゃれあいのうちで、楽しい。
ハイデルベルクには昼前に着いた。ハイデルベルクの観光名所は、ほぼ旧市街に集まっている。中央広場には市庁舎と精霊教会という大きな教会がある。真ん中には、ヘラクレスの像と井戸。精霊教会の向かいには、「騎士の家」というハイデルベルクで一番古い建物もある。
教会の前には色とりどりのパラソルが。主にお土産を売っていたが、特定の曜日には朝市が並ぶという。
私は最初からフライブルクしか見ていなかった。他の街は最初から選択肢になかったし、思いつきもしなかった。直感でフライブルクだと感じたのだ。他の街を調べもせずに。フライブルクの説明を聞いただけで、びびっときてしまったのだ。
戯れのような「もしも」を想像して、いつものことだが、自分の決断の仕方が可笑しくなった。自分にとっての正解だと、信じて疑わないのだから。
(2)に続く