ドイツ留学~なんでもない日常生活~
一月の後半から二月の半ば、卒業論文の題材にしようと思っていた道化師の祭り「ファスナハト」までは、何もない落ち着いた日々が続いていた。
新しいことは何もしなかったし、こちらで知り合った音楽留学の友人たちと会ったという記憶もあまりない(それもそのはず、二月から三月と言えば、音大の受験シーズンである)。
日記は一月末で途切れているし、手帳にも何も書かれていない。
ブライザッハのワイナリー以降も、その次の週の土曜日にようやく一つ予定が書かれているくらいで、一ヶ月は大人しくしていたということがわかる。もしかしたら何か面白おかしいことが一つくらいはあったかもしれないが、写真を見ても日常的な一コマが数枚記録されているだけで、記憶が刺激されない。
ただ、三枚の写真を見て、ある一日のことを鮮明に思い出した。
朝早くに目が覚めたので、いつも気になりながら通りすぎていた喫茶店に入って、二階席から冬のフライブルクの町並み、シュタットテアターの通りを眺めながら、モーニングを頼んだ。
午後の授業になってからというもの、すっかり朝寝坊になってしまっていたので、モーニングを頼むというのは、それだけで私にとって特別な朝となった。
授業が始まる十二時までは、まだ時間があった。そこで、語学学校の裏手にある「ALNATURA(アルナチュラ)」というチェーンのオーガニックスーパーに立ち寄った。食料品の他にも、コスメなどの実用品が置いてある。
ビオの商品をいくつか買い込んで外に出るとき、店員さんに風船をもらった。ガス入の風船を手にするのは小学生低学年以来だったなと思い出して、小さなことに気分が良くなった。
語学学校に持っていくと、チロが面白がって、スユンのポニーテールに風船の紐をくくりつけたりして遊んだ。